ポニョという奇跡

奇跡の作品でした。こんな映画、こんな映画が500近いスクリーンに映され、(おそらく)1000万人以上の人間がそれを見るという奇跡。とてもこの世の出来事とは思えません!

これが芸術アニメであれば、技術や世界観的にもしかして似たような作品があるかもしれませんが、まがりなりにも老若男女対象の、全国でロードショウ公開されるアニメ映画で、ここまでアヴァンギャルドな作品を俺は見たことがないです。

たけくまメモ : 宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢

海外で、我々日本人から見れば、どう考えてもヒットしそうにない「濃い映画」が国民的大ヒットしていて、困惑を覚えることがしばしばありますが、それが国内で起こってしまった感じでしょうか。お隣韓国で『グエムル 漢江の怪物』が大ヒットした時に感じた「こんなイカレタ怪獣映画を、特に映画好きでもなんでもないオジサンオバサンが列を成して観たわけか、濃い国だな。日本じゃとても考えられねぇ」という感情が、そのまま裏表逆に返ってきそう。

崖の上のポニョ』が大ヒットしてしまう国に生まれてきてよかったーーーーーーー!!

予告編を観ただけではわからないことは、最後まで映画を見てもわからない。わかろうとしてる時点で負け。そんな映画。正直言って、面白い映画かどうかも、よくわからない。でも「成功した映画」であることは間違いないでしょう。映画とは即ち表現であり、少なくとも監督が一年前のNHKの番組で、伝えたい、表現したいと仰っていたことがほぼ、完全に、余す所なく表現されていたのですから。なんという己のフェチズムに忠実な作品。金と権力と才能を持った変態が本気出すと恐ろしいな……。

「人間は論理だもん。これはしっぽをすぐ捕まれてしまうんです。しっぽを捕まれるとつまんないんですよ。『あ、分かった。おれそうじゃないかと思ってたんだ』とか言われてしまうし。できたら、ぼう然とするようなものにしたいよね。『わかんないけどおもしろい』ってのが一番いいなと。人間の心の中に相当、五感と六感ってのがあるから、理屈と違う部分があるんだと思うんだよね。だから謎解きなんだよ。謎解きっていうのは、要するに論理で作ってんじゃないんですよ、ストーリーっていつも。例えば言葉で説明したっていっても、せりふだとか、そういうことで分かったことにならないですよ。」

NHKプロフェッショナル 仕事の流儀 映画を創る 宮崎駿・創作の秘密
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しかし、こんな「わがままな」企画が通ってしまうこと、そして監督の思い描く「わがままな」イメージが、そのままの形で作品になるということは、スタジオジブリ宮崎駿監督の才能を具現化する為だけに造られた「世界最高品質の『単なる』出力装置」であることの証明な気もします。

崖の上のポニョ サウンドトラック