潜水服は蝶の夢を見る…☆☆☆

 突然の事故や病気は、万人に降りかかるものである。老人にも子供にも、善人にも悪人にも、愚者にも賢者にも。しかし、ジャンが麻痺した体という潜水服の中で生を完遂できたのは、蝶の夢を見る為に必要な想像力と、それを形ある文章として紡ぎ出す記憶力を備えていたからであって、そういう人だからこそ、かつてELLE誌の編集長というポストに収まり高給を得ていたのだろうし、(おそらくそれゆえに)脳溢血で倒れた後も海辺の病院で美人で有能なスタッフの庇護を享受できたわけだ。

 闘病モノ(?)としてはこの上ないほどのハッピーエンドで終わるこの物語が、たとえ稀有な幸運と才能に支えられたものだったとしても、それでもそこに「病で倒れても、人生のカウンターはゼロには戻らないという」という「希望」を見出したいと思う。「海を飛ぶ夢」より好き。